春休みが始まった。

たった1週間の春休みは、
葉音と遊びに行ったり、
奏と深夜に長電話したりしていたら
あっという間に過ぎていった。

気付けばまた講堂に立っている。
始業式の先生の話が、何故か
いつもより長く感じる。

視界が揺れていて、軽い目眩がする。
多分これはPTSDの発作だ。
薬、飲まないと倒れちゃう。

私はかろうじて前を向きながら制服の
ポケットにあるタブレットケースを
取り出そうとした。
そして、あることに気付く。

タブレットケースが、ない。
いつもはポケットにいれているはずの
タブレットケースがなくなっていた。

朝、ちゃんと入れたのに。
薬がないという不安に襲われて
呼吸が僅かに乱れる。

隣に立っている男子が心配そうに
私を見て、小声で声をかけてきた。

「赤坂さん、大丈夫?」

私は必死に作り笑いを浮かべる。

「だい......じょうぶ...。」

言った瞬間、視界が完全に暗くなった。
音が自分の周りから少しずつ少しずつ
フェードアウトされていく。

「.........さんっ。......赤坂さん!」