面会場所のドアの前に立つ。
早くなっていく鼓動の音。

そして右手には、
私を励ましてくれる幼馴染の手。
彼は私と繋いだ手の方を
突然、強弱をつけながら握りはじめた。

トン・ツー・ツー・トン・トン...

これって......モールス信号だ。

私は目をつぶって懸命に
信号を読み取っていく。

『f』『i』『g』『h』『t』

___ファイト。

そっと隣を見あげれば、こちらを
見てにやりと笑っている君がいて。
ただそれだけで勇気が出る。

「いって、くるね。」

私は深呼吸をして、ドアを開けた。




「お母さん。」

アクリル板を挟んだ向こうに、
お母さんが座っている。
虐待の記憶が嫌でも
頭のなかによみがえってきて
後退りしそうになっちゃう。

だけど。

今日こそは、ちゃんと向き合おう。
こうやってお互いがちゃんと
向かい合うのは何年振りだろうね。

お母さん、痩せたな。

久しぶりに会ったお母さんは、
元気がなさそうに見えた。