奏のことは忘れてしまおう。
スマホを取り出して、
奏とのメッセージを削除する。

こうしてみると、私が1番
電話したりラインを送ったり
していたのは君だったな、
なんて改めて感じる。

メッセージの履歴を削除する間も、
涙は止まってくれなくて。

メッセージを削除してからは床に
散らばった写真立ての残骸を
端が破れた写真と一緒にかき集めた。

それらを、胸に抱き締める。


これでいい。


これで良かったんだよ。



「奏。幸せになってね...。」

君にはいつも笑っていてほしいから。
泣き顔なんて見たくないから。
人生を後悔してほしくはないから。

君がいつまでも今のままの
優しく暖かい君でいられますように。

病室の窓を開け放つ。
全身が濡れていくのも構わずに、
私は空を見上げた。

光のない暗い空。

叩きつけるような雨。

それは、まるで......

「今の私みたい、じゃんか。」

また泣いた。
涙は止まらなかった。

泣きながら、奏のことを考えた。

出会ったときのこと。

口無し事件のこと。

君の笑顔。

優しい言葉。

あのときのバニラクッキーの味。

包み込んでくれる手。

少し低い声。

私の......幼馴染。

やっぱり、好きで好きでたまらない。

私だけの大切な......思い出だ。