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二人きりにさせるにしては、随分残酷な舞台じゃないか?神様。

「ごめん…ごめんなっ…」

横たわった私を強く抱きしめながら、彼は何度も謝罪を繰り返す。その手には私を撃った血濡れの銃が握られていた。

先程まで脇腹から広がる熱い痛みに支配されていた体は、今は何も感じなくて、冷たくて黒い何かに塗り替えられそうだ。

それでも。

「…案外怖くないものだな」

「もう喋るな…!」

縋り付いてくれる体温だけは鮮明に感じて、心は凪いだように穏やかで。
これはこれで、幸せな時間だって思えた。

最初から無理だったんだと思う。
本来なら敵であるはずの私達に、未来なんてなかった。

互いの仲間を裏切り続ける行為に救いを求めるのが間違っていたんだ。
気づいていても目を背けて、偽りながら何度抱きしめ合っただろう。

その結果がこれ。
ああでも、最期をもたらすのが貴方で良かった。
貴方なら、殺されても良かったよ。

廃ビルの屋上からは黒猫が似合いそうな三日月がよく見える。
その黄金も霞んできて、最期が近いのだと悟った。

どうせなら私を愛し、私を葬った貴方を最高に傷付ける言葉を残そう。
傷付けるように愛し合った私達には、酷くお似合いでしょう?

ねえ。

「その甘さに溺れていて、ごめんね。」

その時の貴方の顔を見れなかったのが、あえて言うなら心残り。