花束を携えて墓標の前に立っても、君がそこにいるなんて未だに信じられないんだ。

「……やあ、久しぶり」

だって君は答えてくれない。
君はどんなにくだらない僕の言葉にだって、面倒くさそうにしながらも答えてくれたじゃないか。
そして緩く笑い、「ばーか。」なんて僕の頭を小突いて。

意味もなく発した言葉を風が搔き消すのを感じながら、灰色の石の側にしゃがむ。
この下に眠る彼女と目を合わせるようにして、僕は石にそっと触れた。

彼女はこんなに冷たくない。体温が低いのだと苦笑いしていたけど、握った手には確かな温もりがあった。
そう伝えたら、照れて俯いた君を、ちゃんと覚えている。

だけど君はもうどこにもいない。

墓石と彼女を重ねるごとに、逆に彼女の存在が遠くなる気がする。

彼女は、ちゃんと僕の隣で笑っていたはずなのに。
確かに触れ合えたはずなのに。

思い出だけはっきりと残して消えるなんて、酷いじゃないか。

冷たい石に置いた手に、力がこもる。
指先が白くなるほど握っても、灰色は沈黙を保ったままだった。

「好きだよ」

いや、違うな。

「…愛している」

ちゃんと伝えれば良かった。
とっくの昔に、「好き」だけじゃ足りなくなってたのに。

「愛」と呼ぶには汚すぎた感情は、出口を失って今もなお僕の心に燻り続けていた。

なあ、神様。一度だけでいいんだ。
何を引き換えにしてでもいいから。

もう一度、君に会いたい。

たとえすれ違うような一瞬の時間だったって、彼女の腕を掴んで伝えるから。

そんな幻想に夢見るくらい、僕は後悔しているんだ。

君を、殺してしまったことを。