蓮の肩を掴んで隠れようとする泉に俺は怒声を上げる。蓮は泉を横目で見ながら、口の中に入っていたパンをゴクリと飲み込んだ。

「……何で俺に近付ける?」
「え?」
「俺だけじゃねぇ。孟にも、舜達にも」

静かに、蓮が泉に問いかける。舜も一誠もしん、と大人しくなり、屋上一帯が静まり返った。

「怖くないのか?俺らの事が」

女には2種類ある。
いつだったか、蓮と俺が、先輩に聞いた言葉だ。



『俺らみてぇな奴に近付く女は、大抵俺らに媚びるんだよ。逆に媚びねえ奴らは近付かねえ。見た目で俺らがおっかねぇもんだと判断してやがる。ま、あながち間違いじゃねぇけどな』



俺らがおっかない、ってのは、確かに間違いじゃないんだろう。
けど、少なくとも俺らはクスリをやった事はないし、金もたからねぇし無駄な喧嘩もやりゃしねぇ。それを勝手に判断して、ありもしない噂を勝手に流してやがるだけの事だ。

「………」

なのに。

なのに、こいつは。


「……何か怖い?蓮君達って」


平然と、問題なさげに、けろっとしたような顔で。本気で何を言われているのか、わからないとでも言いたげに。

「……はっ」

乾いたような笑みを浮かべた。きょとんとした泉の頭を、ため息をついた連がわしゃわしゃと撫でる。

「わ、何」
「……いや。気まぐれだ」

本当に気まぐれだろう。こいつは変な所でマイペースだから、相手云々関係ない事を平然としてのける時もある。それがまたこいつの良い所でもあるんだろうけど。

「変わった子だなぁ、千寿ちゃん」
「ほんとだよ。連にも気に入られて…孟が面倒見ようとしてる訳だよね」
「訳わかんねぇ事言ってんじゃねぇよ」

第一こいつは、もう。

そう言いかけて、ぐっと言葉を喉に押し込んだ。