「……お前頭沸いてんのか」
「早速辛辣だね古賀君!言っとくけど何も嘘ついてないからね!」

からりと底抜けの笑顔でそう言った泉に、俺は単純に「は?」と思った。急に死亡宣言した奴をどう見れば変な奴じゃないと思うのか。自他共に認めるヤンキーの俺でもわかるぞ、そんな心理。

「今私にたいして失礼な事考えたね?」
「うぜぇ」
「ひっど!可愛い女の子になんて事言うの!」
「てめぇやっぱ頭沸いてんな」

自分を「可愛い」なんてほざく奴は、大抵気持ち悪い、と俺は勝手に思っている。そういうのぶりっ子多いし、うざいし、単純に嫌いなんだ。
まぁ、こいつの性格なら、冗談でこういう事を言うのはわかるものだが。

「……で、お前が俺に何か用か。泉」


泉千寿は俺のクラスメイトだ。その底抜けに明るい態度と不真面目ながら愛嬌のある性格は、クラスの中ではマスコット的存在になっている。ムードメーカーではなくマスコット、というのが重要である。
何せこいつは重度の“馬鹿”だ。勉強はどれをやらせても赤点ギリギリかそれ以下で、授業中は喋っているか爆睡してるかの二択。しかし周囲からは不良ではなく、あくまで“馬鹿”という認識だ。学校公認で。
焦げ茶色の髪は肩下あたりで軽く跳ねていて、目も髪と同じ焦げ茶色。整った容姿はそれなりに男を呼ぶらしく、告白されたという話も何度も聞いた。付き合った、という話は少しも聞かないが。

「用がないと話しちゃ駄目?」
「俺とお前はろくに話した事ねぇんだぞ。用もねぇのに話しかけんのか」

いくらクラスメイトとはいえ、俺とこいつが喋った事はゼロに等しい。そりゃ一度もないって訳じゃねぇが、本当にほんの少し、きっと数秒で終わるような会話しかない筈だ。

「古賀君って実は真面目?」
「俺のどこを見て真面目と思った、お前」
「そんな冷たい目で私を見るな傷付く。ちゃんと理由あるから聞いて」

ばっと手を出して止める仕草をするが、泉。それは何のポーズだ。顔に手のひらを添えるなうざい。お前はガリ〇オか。

「で、本題に入るとですね」
「話に入るまでが長ぇ」
「うんごめんね?それでさ、本題だけど」

海と夕焼けという、俺の嫌いなツーコンボを背景に、泉が薄く微笑んだ。
その瞬間、ずっと泉の瞳に映っていた光が、一瞬にして消え失せた。



「私、不治の病なの」