「別に……怒ってないよ」

「じゃあなんで、そっち向いてんの」

「(アンタの所為だっつーの…、)」



掴まれている腕を軽く振ってみても、離れる気配が全くないそれ。

思わず細く息を吐き出してから、赤く染まり切った頬を何とか常態に戻そうと奮起する私。





その甲斐があったのかは分からないけれど、やっとのことで下がった体温に安堵し振り返った。

と、そのとき。



「――、なにやってんの……」

「ちゅーしたら機嫌良くなってくれるかと思って」

「お兄さん、私のこと"女として見れない"って言わなかった?」





掴まれた自らの腕と、私の指先ぎりぎりのところに唇を寄せるその男。

今日も今日とて黒っぽいリクルートスーツに包まれたその身は女の私から見ても華奢で、伸びる手先は骨張っている。




眉根をぎゅっと寄せて視線を落とす私を見上げる形になっても、何ひとつ動じてはおらず。



「NO-、"今までに会った女とは違う"って言ったんだよ」





更には底知れぬ色気を混じたような視線を上げて、ハスキーボイスで挑発的に言葉を落とす。

体温の繋がる手首が、熱い。