夕食がわりの夜食を食べ終わる

「ご馳走さま、夜食にしては重かったかな…」
誰に言う訳でも無く、呟く。
食べ終えた後の食器をシンクに直し、洗うのは明日でいいか…

テーブルのタバコに手を伸ばす。

ふぅー…部屋に漂う煙をぼーっと眺めながら、
かつての彼女の事を思い出す。

彼女とは上手くいかなかった。
お互いを嫌いになったり、愛想が尽きた訳じゃない。
だけど最後はお互いの気持ちや、意見がすれ違っていた。

理由は彼女の母親が病気がちで、彼女の方から、実家を離れる事が出来ない、そう言われたからだ。
俺の家に泊まりに来る事ですら、気が気では無かったらしい…。
そして俺に、地元に戻ってきて一緒に暮らして欲しい、
そう言われた。

きっとこの事を俺に伝える事を、ずっと彼女は悩んでいたんだろう。
どれほどの思いで、俺に伝えたのだろう…
その事に気づけなかった、俺はホントにダメな奴だ。

彼女のこの望みに、俺は答えが出せなかった。

それからは、彼女と逢う時間、話す時間が減っていった。
当然、二人の気持ちはすれ違っていった。
あの頃の彼女が、どう思っていたのか、今となっては判らないが、彼女のへの気持ちは変わる事が無かった。

だけど、あの頃の俺は、素直に本心を伝えられ無かった。


それでも最後は話し合い、お互い別れる事を選んだ。




不思議に思う。
なんで今更思い出すんだ…。

枕元の携帯電話を見る。
あぁ、思い出した、寝る前に見たコイツからの連絡だ…

相変わらずのゴシップ好きに、溜め息が漏れる。

特に聞いてもいないのに、誰と誰が別れただの、不倫してるだのを俺に伝えてくる。

俺自身、ゴシップなんて全く興味が無いが、コイツからの連絡を拒否しないのは、たまにしか連絡して来ない事と、時折り、役に立つ情報が入ってくる事があるからだ。
そして、数少ない彼女との共通の友達だ。

そう、今回のコイツからの連絡は
『彼女が結婚する』
と言う内容だった。

何処で聞いてきたのか、相手との出会いから、歳だの年収だのを伝えてくる。
結婚してからは相手の実家で、向こうの親と同居するらしい事も…

俺は、小さな引っ掛かりを感じたが、それを口に出したところで今更、何が変わる訳でもない。
俺はその小さな引っ掛かりを、胸の中に飲み込んだ。

その事を知ってか、知らずか

『あの子やっと結婚出来るって言って、
幸せいっぱいみたいだよ~(^^)
あ〜ん、アタシも幸せになりたい~(>_<)
崇人、アタシと付き合って??』

相変わらずの内容に、いつもの様に

『ふざけんなw
とっくに人妻じゃねーか!』

そう返信して、携帯電話をテーブルに置く。



時計は夜中の2時を回ったところ
部屋の明かりを消して、ベッドに横になる。

「さて、明日も仕事だ…寝るか」

誰に聞かせる訳でもない、独り言。

うす暗がりの中、目を閉じる。







あぁ、今夜は上手く眠れそうに無いな…