「実は……ちょっと困ってて」

 数秒だけ逡巡を見せたあと、明李さんは口を開いた。

「その男に何かされたんですか?」

 僕は思わず、テーブルに両手をついて身を乗り出す。



「別に、何かされたってわけじゃないけど……。あ、時光くんには関係ない話だし、私の問題だから。心配しないで」

 彼女の視線が下を向く。心配するなと言われても、どうしても心配になってしまう。元気がない明李さんを見るのは嫌だった。



「少しでも力になれませんか?」

 僕は食い下がった。迷惑だと思われているかもしれない。それでも、好きな人が暗い表情でいるのを放っておくことはできなかった。



「……実はこの前」明李さんが、ゆっくりと切り出した。「その人から、クリスマスに一緒に出掛けないかって言われて」



 クリスマス、一緒、男女。これが何を意味しているかは、さすがの僕でもわかる。その男も明李さんに対して好意を抱いているということに他ならない。ショックだった。



 他にも明李さんのことが好きな男がいるというだけでも大打撃なのだが、その男のスペックが高いという事実が、さらに僕を追い込む。

 誘われた本人があまり乗り気ではなさそうなのが、唯一の救いだった。



「この前、恋愛をしないことに決めてるって言いましたよね。それで困ってるってことですか?」

「うん。そんな感じ」



「恋愛をしないっていうのは、どうしてなんですか? もちろん、話すのが嫌であれば無理には聞きません。でも、誰かに話せば少し楽になるってこともありますし、もし僕でよければ聞くので、話してくれませんか?」



 興味本位で聞いているわけではない。明李さんの抱えているものが何であれ、僕は彼女の味方でいるつもりだった。