十一月が過ぎ去り、季節はいよいよ本格的な冬へと突入する。今年もあと一ヶ月で終わってしまう。時間の経過を速く感じるのは、年をとった証拠だろうか。人間の体感する時間は、二十年でちょうど人生の半分くらいだという。そんなことを思い出して怖くなってきた。



「先輩! 期末テスト、すごく良い結果でした。物理なんて、クラスで三位でした!」

 勤務後、バックヤードで帰りの支度をしていると、同じくバイトを終えた文月さんが言った。



「すごいじゃん!」

 目を輝かせて話す彼女に、僕まで嬉しくなってくる。



「先輩のおかげです。本当にありがとうございます」

 感謝されることにあまり慣れていない僕は、気恥ずかしさを覚えて目を逸らす。

「いや、文月さんが頑張ったからだよ。僕でよければ、また教えるから」



「そう言っていただけると嬉しいです! またお世話になると思います!」

「うん。それじゃ、お先。お疲れ様」

 僕は荷物を持って立ち上がり、バックヤードのドアを開いた。



「はい。お疲れさまでした」

 ロッカーの前で帰り支度をしている文月さんが振り向いて挨拶を返す。そのとき、ちょうど彼女はスクールバッグを肩にかけていて、そのバッグにつけられた星型のキーホルダーが揺れ、蛍光灯からの光を反射して煌めいた。



「そのキーホルダー、いいね」

 そんなことを唐突に口走ってしまったのは、伊澄のアドバイスをふと思い出したからだった。



――女の子は褒められるとすごく嬉しくなるの。どんなに小さいことでも。



 前からつけていたのは知っている。ずっと、お洒落なデザインだと思っていた。



「ありがとうございます」

 彼女は笑って言った。社交辞令的な笑みではなく、本当に嬉しそうに。

 そんな文月さんが眩しすぎて、僕は逃げるようにドアを閉めた。