昔から、たまに消えてなくなってしまいたいと思うことがあった。

 その瞬間は、法則性も予兆もなく訪れる。



 音楽の授業で歌っている最中だったり、友達とファミレスで話しているときだったり、部屋でボーっとしているときだったり……。そんな何でもない日常の中に、ふと、生きていることに対する不安が突然やってくるのだ。



 それは、自殺願望とはまた違うものである。死ぬことは怖い。

 死にたい、ではなく、最初から存在しなかったことになりたい。



 私が生まれてこなかった世界。そこには、私の身体も精神も意志も心も、何もない。今私が生きているこの世界が、突然そんな世界に切り替わることを想像する。もちろん、そんな都合のいいようなことは起きない。わかりきっている。でも、もしもそうなったとしたら、私はどこへ行くのだろう。





 教室では相変わらず、私は一人だった。愛香(あいか)とも麻帆(まほ)とも由芽(ゆめ)とも、一言も交わさない日々が続く。徹底的に無視されているようだ。



 由芽は、廊下ですれ違ったときに目を伏せる。彼女の代わりに、グループから弾はじき出された私に対して、後ろめたい気持ちがあるのだろう。 

 しかし彼女は、そうなることを自分から選んだのだ。なら、そんな悲しそうな顔をせずに、もっと楽しそうにしていればいいのに、とも思う。



 かけがえのない親友というわけではなかったから、彼女たちと話さなくなっても私の学校生活に大きな影響はなかった。

 仲間外れにされた瞬間こそショックは大きかったものの、今ではもう、独りでいることに慣れてしまった。



 机に落書きされたり、上履きを隠されたり、水をかけられたり、そういう直接危害は加えられるようなことはされていない。

 学校に話す相手がいなくても、私は問題なくやっていける。