「いや、僕のことを好きになる人なんて滅多にいないと思うよ?」

〈そんな自信満々に言われても……〉

 文月さんが僕を好きだなんて、まったく信じられなかった。そもそも伊澄だって、僕から聞いた話だけで文月さんの気持ちがわかるはずもない。



「それに、その子は妹みたいなものだし」

〈……〉

 伊澄は何も答えなかった。

「ちょっと、何で黙るの?」



〈それ絶対に本人に言っちゃダメだからね〉

 彼女は、絶と対の間に三秒くらいの促音を挟んで言った。



「どうして」

〈とにかくダメ。ダメなものはダメ。で、その子はキミのことが好き。これは間違いない!〉

 よくわからなかったけれど、とりあえず従うことにした。



 伊澄が学校へ戻った後、僕は石を目の前に掲げてじっと見ていた。どこも変なところはない。様々な角度から観察してみても、いつもと違うところは見当たらなかった。



 なぜそんなことをしていたのかというと、石を通して聞こえた伊澄の声に違和感を抱いたからだ。声が違うわけでもなければ、伊澄の口調が変だというわけでもない。



 言葉では言い表すことができないが、前と比べて何か違うような気がする、くらいのちょっとした引っかかりだ。おそらく、僕の気のせいだろう。