〈ちょっと! せっかく頑張ってるんだから、諦めないでよ⁉ ここでキミが諦めたら……〉

 伊澄が言いかけた言葉を止めた。どうしたのだろうか。

「諦めたら、何?」



〈諦めたら……絶対後悔することになる。そんなの、私も悲しいよ。だから、諦めないで〉

 彼女の言葉に、少しだけ違和感を抱いた。歯切れが悪いような気がする。本当は別のことを言おうとしていたのではないか。



「別に、諦めてるわけじゃないよ。ただ、それが明李さんの意志なら仕方ないかなって思っただけ。恋愛するかしないかなんて、個人の自由なんだし」



 半分は本音だった。僕は明李さんを好きで、彼女が幸せであってほしいと思う。明李さんと恋人同士の関係になりたいという気持ちはあるけれど、それで彼女が幸せになれないのならば意味がない。もう半分は強がりで、ただの言い訳に過ぎなかった。



〈それ、本気で言ってるの?〉

 伊澄の声質が固くなる。イライラしているのがわかった。

「そんなわけないだろ!」

 思わず僕も、語気が強くなってしまう。



 最初は間違いだと思ってた。あんなに綺麗な人を好きになるなんて。でも、時間が経つにつれて、気持ちは冷めるどころか、逆に想いが募っていった。

 どんどん彼女に惹かれていく自分が、自分じゃないみたいで怖くもあった。



 明李さんが嬉しいときも、悲しいときも、どんなときもそばにいれる存在になりたい。たかが大学生ごときの恋愛で、大げさだと思われるかもしれない。それでも僕は――

「僕は、明李さんを幸せにしたい! 明李さんと幸せになりたい!」



〈だったら、今は恋愛したくないなんて考え、ぶち壊しちゃえばいいじゃない! キミが全力で幸せにすればいいじゃない!〉

「そんなの、どうやって――」



〈大丈夫! キミたちはちゃんと、幸せになれるから!〉

 伊澄は力強く断言した。そんな未来がくる根拠なんてないはずなのに、なぜかそれが本当のことのように聞こえた。