三連休は、特にどこかに出かけるでもなく、課題をほどほどにこなしたり、バイトに励んだりしながら、基本的にはいつもと変わらぬ日々を過ごした。

 連休の最終日である今日も、僕はバイト先にいた。勤務終了後、シフトが同じだった文月(ふづき)さんに、バックヤードで数学を教えているところだ。



「こっちの数列の総和を三倍して、縦にこう並べると……」

「あっ、そっか! 上から下を引けばこれしか残りませんもんね」

 期末テストが近いらしく、いつもに増して真剣さを感じる。



「うん。たぶん他の問題も同じやり方でできると思う。テスト頑張ってね」

「はい。おかげさまでいい点数がとれそうです。いつもいつも本当にありがとうございます」

 文月さんはそう言いながら、礼儀正しく頭を下げる。



「いえいえ。大学生なんてどうせ暇だし。僕ができる範囲でならまたいつでも教えるよ」

 僕が暇なのは大学生だからではなく、友人がいないからであるというのは黙っておく。



「あ、先輩。そっ、それでですね!」文月さんが、スクールバッグから何かを取り出す。「お礼といってはなんですけど、映画の前売り券が二枚ありまして――」



 彼女が僕に差し出したチケットは、公開されたばかりの恋愛映画のものだった。テレビや雑誌などでも大きく広告を打ち出していて、かなり話題になっている。原作の小説は百万部を超えるヒット作らしい。



 おそらく、文月さんも僕と同じで、一方的に他人に何かをしてもらうことが苦手なのだろう。興味がないわけではなかったけど、その前売り券だってある程度のお金がかかっているわけで。勉強を教える対価として、年下の女の子からそういったものを貰うのも気が引けた。



「いや、お礼が目的で教えてるわけじゃないし、気にしないで大丈夫だよ。気持ちだけ受け取っておく。だから、友達と一緒に行ってきな」

 それに、僕にはどうせ映画に一緒に行ってくれるような友人もいないのだ。



「あ……はい。わかりました。そうします」

 何かを言いたそうにしていた様子だったのが、少しだけ気になった。