続いて、彼女の好みを聞き出すことにした。もちろん直接的に尋ねるわけにはいかないため、それらしい会話を組み立てる必要がある。僕の頭は高速回転していた。試験以外でこんなに頭を使うのは初めてだった。



「でも、意外ですよね」

「何が?」

「朽名さん、結構モテるんじゃないですか?」

 現に今、僕はメロメロだ。



「そんなこと……まあ、なくもないかもしれないけど。そういうのは全部断ってるよ」

 明李さんは謙遜するわけでもなく、事実の一つとして答えた。それでいて、自慢にも聞こえない控えめな口調。



 僕が好きなのは明李さんただ一人だけど、明李さんに惹かれる人は僕以外にもたくさんいるのだ。考えれば当たり前のことだった。こんな綺麗な人が、放っておかれるわけがない。



 それでも僕は、明李さんの選ぶたった一人になりたいと思った。恋する相手を決めるのは、敵の多さでも難易度でもない。その人が、どれだけ引く手数多(あまた)でも、どんなに難攻不落であったとしても、大切に想う気持ちだけで十分だ。



 だから今は、できるだけたくさん彼女のことを知らなくてはいけなくて。

「へぇ。じゃあ逆に、どんな人ならいいんですか?」

 僕は自然な流れで、彼女の理想の恋人について質問した。完璧なはずだった。



 だが、明李さんは、虚を突かれたように動きを止めてしまう。

 一瞬、表情が陰ったような気がした。



「……私、恋愛はしないって決めてるの」

 幾ばくかの沈黙を破り、紡がれた明李さんの言葉は、僕が予想だにしないものだった。彼女は悲しそうに眉を下げて、無理やり笑顔を作ろうとしている。