「どっちだと思う?」

「へ?」

 顔を上げると、意地悪な笑みを浮かべた明李さんが僕を見ていた。



「彼氏、いるかいないか」

 普通だったら、面倒くさい女だと思われるような言動も、彼女だと魅力的に思えてしまう。小悪魔的なその笑顔から、僕は視線を剥がすことができなかった。



「そりゃ、朽名さんは、その……綺麗ですし、いてもおかしくないんじゃないかと思います。あ、でも高嶺の花すぎて、誰も近寄って来ないなんてこともあり得るのかな……なんて」



 女性に向かって〝綺麗〟なんて言葉は、今まで生きてきた中で一度たりとも使ったことはなかった。今日の僕は、本当にどうかしているみたいだ。



「あはは。ありがと。彼氏はいないよ。だから安心して」

「なっ、何をですか?」

 たしかに、明李さんに彼氏がいないことに僕は安心はした。しかし、彼女はどういう意味で言ったのだろう。



「今日一緒に食事したことが理由で、私の彼氏に殴られる可能性はないから」

 そのおどけたような口調からは、ただ単に僕の気持ちに気付いていないのか、それとも気づかないふりをしているのかは読み取れなかった。



 ひとまず落ち着こう。コップを手に取り、水を一気に飲んで、口内の渇きを潤した。彼女が僕の好意を察しているかどうかは、ひとまず置いておく。