伊澄に恋愛相談をし、食事に誘うという提案をされた翌日。授業の入っていない二限。僕は図書館で統計学の課題に取り組んでいたのだが、難解で複雑な数式の展開に飽きてしまい、生協の書籍購買部に行くことにした。



 明李さんには会いたかったけれど、会ってしまったらお昼ご飯に誘わなくてはならない。昨日の今日で心の準備など整うはずもなく、明李さんとの遭遇を期待しつつ、彼女がいないことを願っていた。



 しかし入店直後、視界の隅に映ったのは、紛れもなく僕の片想いの相手で。

 大きめの青いニットに黒いスキニーパンツ。そんなシンプルな服装でも、明李さんはその場のどの女性よりもお洒落に見えた。



 どうして、こういうときに限って……。ゲーム内で、欲しいアイテムやキャラクターなどに限ってまったく出てこない、そんな物欲センサーというものがあるけれど、それと同じ仕組みだろうか。



 ――次に明李さんと会ったら何が何でも誘うように。

 頭の中で、伊澄の声が反響する。



 きっと、神様の采配なのだと思った。

 このタイミングで勇気を出さなければ、僕の心は、明李さんへの片想いに対する諦念を受け入れてしまいそうな気がしていた。



 僕は数回、深く呼吸をしてから、彼女に近づいた。



「朽名さん」

 そう声をかけると、綺麗な形をした瞳が僕の方に向けられる。艶のある髪がふわっと揺れた。



「ああ、時光くん。こんにちは」

「こんにちは」

 さて、どうしようか。今の明李さんの笑顔で、最初に言おうとしていた台詞がどこかへ消えてしまった。