「……お昼、どうですか?」

〈暗い。ダメ〉

 辛辣。



「お、お昼ご飯一緒にいっいい行きませんか?」

〈噛みすぎ。やり直し〉

 ごめんなさい。



「ヘイ! そこの綺麗なネーチャン! ランチでもどうだい!?」

〈舐めてんの?〉

 ですよね。



「だいたい、こんなことしたってどうせ本人を目の前にしたら頭が真っ白になるに決まってる」

 僕の肝の小ささを舐めないでほしい。いや、胸を張って言えるようなことじゃないけど。



〈なら、なおさら練習しておくべきでしょ。練習でできないことが本番でできるわけないんだから〉

 たしかにその通りなのだが……。



「でもさ、いくら声だけしか聞こえてないからっていっても恥ずかしさはちょっとはあるわけで――」

〈いいから。はい、次!〉

 ……人間の言葉を話す鬼がいる。



 それから繰り返すこと数回。

「もっ、もしよければ、一緒にお昼でもどうですか?」

〈んー、まあいいでしょう。合格!〉

 僕は総計八回のチャレンジを経て、ようやく審査に通った。



「ふぅ」

 安堵の息を吐いたのも束の間。

〈それじゃあ宿題。家で今のを五十回練習!〉

 最後まで手厳しい!



「それで、仮に一緒に食事できたとして、ご飯のときは何を話せばいいの?」

 僕と明李さんが楽しそうに食事をするビジョンが、どうしても想像できなかった。

〈自分で考えたら? それくらいどうにかなるでしょ〉



「今まで何にもできなかった奥手男子がアドバイスなしでどうにかなると思ってる?」

〈……たしかに〉

「それで納得されるのもなかなか悲しいものがあるね」