「あ、いや、宇宙の勉強してるってことは、すごく偏差値が高いんじゃない? それで、頭いい人は教えるのも上手なんだなって」

 そういうことか。たしかに所属する大学の偏差値が高いことは否定しないけれど、それは努力した結果にすぎない。



「そうとは限らないよ。僕の学科に、宇宙の研究で世界的に有名な教授がいるんだけど、その授業がひどいんだ。まず黒板の字がミミズみたいで。説明も、ある程度の知識があることを前提にしてるし、学生の頭の回転が自分と同じくらいだと思ってるから、すぐに置いていかれる」



 要するにその教授は、頭の作りが常人とは違っているタイプの人間なのだろう。僕もそうなりたいものだ。



「へぇ。じゃあキミは、頭も良くて教えるのも上手いってことか。すごいじゃん」

「別に、そんなことは……」

 謙遜したが、褒められて悪い気はしなかった。



 反対に僕も、伊澄の話には全然ついていけなかった。伊澄は音楽を聴くことや漫画を読むことが好きだと言う。



 彼女が愛読しているのはいわゆる少女漫画というものであり、僕も流行りの漫画はたまに読んだりするが、少年向けや青年向けのものばかりである。伊澄の挙げるタイトルに、僕が知っているものは一つもなかった。



 少女漫画に関して前から思っていたことを、一度彼女に言ってみたことがある。

「イケメンで性格も良くてモテモテの男なんて、現実に存在するわけないだろ。仮に存在したとしても、地味で取り柄のない主人公の女の子を好きになるなんて、都合が良すぎない?」



 以前から、王道な少女漫画にありがちな設定に疑問を感じていた。娯楽とはいえ、リアリティは大切だと思う。



「あら。じゃあ言わせてもらいますけど、男性向けの漫画はどうなんですか?」

「へ?」

 予想外の角度からの反論に、僕はそれこそ漫画のような反応をする。