会話の内容は、僕の勉強していることだったり、彼女の好きな漫画についてだったりした。



 僕の所属している理工学部の宇宙工学科は、宇宙に関する最先端の研究が盛んに行われている学科だ。

 ある日伊澄に、大学ではどんな勉強をしているのか聞かれ、僕はそれに答えた。彼女は理系科目は苦手なようで、難解な物理の話に相槌を打っているだけだった。



 もっと上手くかみ砕いて説明できればいいのだが、僕自身もまだ完全に理解していないこととなると、どうしても人から聞いたことや本に載っていることをそのまま話すことしかできなかった。



 ブラックホールやダークマターなどの、宇宙の話もした。しかし、僕の話がひと段落するなり伊澄からは〈ごめん、途中から全然わからなかった〉と返ってきて、そこそこ落ち込んだ。



 好きなことを話すときは、テンションが上がり、話す相手のことを忘れて暴走してしまうのだ。



 たまに、伊澄が授業で理解できなかった部分を質問してくることもあった。

 初めて彼女に勉強を教えたのは、出会いからちょうど一週間くらい経った頃だった。



 理科の授業でイオンの仕組みが理解できないということを愚痴ってきたのがきっかけだ。なるべくわかりやすく教えると、彼女は一生懸命聞いている様子だった。



「やっぱり、教えるの上手いね」

 僕の説明が終わるなり、彼女はそう言った。



「えっ?」

 やっぱり、という部分に違和感を覚え、思わず聞き返した。伊澄に何かを教えるのは、これが初めてのはずだった。