知らない少女と石を通して会話をするという、不思議な出来事が起こった翌日。

 あれはやはり夢だったのではないか。そんな思いが強くなっていた。



 数合わせにとった興味のない授業を適当に聞き流し、昼休みにいつも通り小屋へと向かう。

 木製のドアを開くと、キィ、という耳障りな音が響いた。内側は今日も相変わらず雑然としていた。まあ、それがかえって落ち着くのだが。



 早速、バッグからお守りを取り出してみるが、何も反応はなかった。

 お守りを膝の上にのせ、菓子パンの袋を開封してかじりつく。



 十分ほどで食事を終えた。しかし、その間もお守りが光ることはなかった。

 中から石を取り出して、手の中でもてあそびながら考える。やっぱり、昨日の出来事は夢だったのだろうか。自然と大きなため息がこぼれた。



 伊澄(いずみ)という女性は、この世に存在しない。僕が作り出した幻想だった。

 石を通じて遠く離れた場所にいる人間と会話するなんて、そんな不思議なことがあるはずがない。



 そういえば、孤独な子どもが空想の友達を作り出すというような話を、小説で読んだことがある。イマジナリーフレンドと呼ばれる現象だ。

 僕は自嘲気味に笑う。二十歳すぎのいい年した男が、寂しくて空想の友人を作るなんて、情けなくて笑えてくる。