「この作品もね、ドキドキハラハラなの! あれ? ハラハラドキドキ? ま、どっちでもいいや! 何がすごいかって、最後に生き残っ……おっと危ない! まだ読んでないんじゃネタバレになっちゃうね。とにかく、人間の強さが描かれてて、すごいの!」



 瞳がキラキラ輝いている、という表現は何度も聞いたことがあったが、実際にその様子を見たのは初めてかもしれない。

 そこまで覚えてるんだったら、もう一度読まなくても……とは思わなかった。僕にも、内容は覚えていても繰り返し読みたい文章はある。



「あ、あの。わかりました。この作品も、この作者もすごいのは十分伝わりましたから」

 隙を見て、手のひらを彼女の方に向けて突き出し、再び話し出しそうな彼女を止めた。



「本当? 嬉しい! うああああっ! どうしよう! 色々話してたら私も読みたくなってきちゃった。ねえ、私が先に読んで、読み終わったらあなたにあげるってことでどう?」



 笑ったり嘆いたりと、次々に変化する彼女の表情は、落ち着いた容姿とのギャップがあった。しかし、彼女の魅力は決して損なわれることはなかった。それどころか、より可愛らしい印象を僕に与えた。



「あ、はい。それでも大丈夫です」

 それなら最初から譲りますよ、なんて言えば、またさっきの繰り返しになってしまうような気がした僕は、頷くことしかできなかった。



「ん。じゃあ、はい」

 彼女はポケットからスマホを取り出して、僕の前に差し出してくる。

「え?」

 このとき、僕はずいぶん、間抜けな表情をしていたと思う。