伊澄との会話を終えた僕は、そのまま十分ほどボーっとしていた。

 まるで、夢の中にいるような感覚。

 昼休みはすでに終わっているが、三限に授業は入っていないため問題はない。



 離れた場所にいる高校生の少女と、光る石を通して会話をした。

 そんなことを昨日までの僕に教えたら、間違いなく頭がおかしくなったと思われるだろう。



 二年前に僕が拾った石は特殊な力を秘めていて、遠く離れた場所にいる石を持った人間と通話することができる。とりあえず、混乱を収めるために、そういう風に解釈した。



 自分の理解を大幅に超えた現象に直面し、全てを受け入れてしまった方が楽だと判断したのかもしれない。



 そうして無理やり納得させると、僕の思考は、どうやって四限までの時間を潰すかという案件へとシフトした。

 十秒ほど悩んで、僕は生協の書籍購買部へと向かうことに決めた。



 生協とは、キャンパス内に存在するコンビニのようなものだ。食品や文房具の販売だけでなく、自動車教習所やサークル合宿の斡旋など、学生をサポートするためのサービスも充実している。



 また、ほとんどの大学では書籍購買部も併設されていた。教科書や参考書の占める割合が多いが、小説や漫画、雑誌なども売られている。



 僕の通う大和学園大学も、例に漏れず書籍購買部が存在していた。定価の一割引きで購入できるため、読書好きの僕は、週に二、三度は通っている。