職場で、上司から紹介されたある求人に応募したところ、高い倍率の中、なんと僕は最終候補に選ばれた。

 とある国を拠点にして、宇宙の神秘に迫る壮大なプロジェクトだ。



「宇宙に行こうと思う」

 伊澄が寝静まったタイミングで、明李さんに切り出した。



「宇宙?」

 明李さんが目を丸くする。宇宙に行くことを、人生における一つの目標として話したことはあったけれど、求人に応募したことはまだ言っていなかった。



「うん。ちょっと、詳細は言えないんだけど……」



「すごいじゃない! おめでとう! でも、ちょっと寂しくなるね」



 悲しむより先に、僕の夢を喜んでくれた愛する人を、これから先も愛し続けよう。僕は改めて心に誓った。



「帰って来るのが、十年先くらいになると思う。もしかすると、もっとかかるかも」



 これを聞いたら、やっぱり反対するだろうか。伊澄もまだ小学生になったばかりだ。



 もしも明李さんが少しでも反対するようなら、僕はプロジェクトを辞退することを決めていた。

 緊張して彼女の反応を待つ。



「じゃあ私たち、次に会うときは四十歳くらいね」



 彼女は笑った。

 何の迷いもなく言う彼女を見て、僕の頬を涙が伝った。

 さんざん悩んだのがバカみたいだ。



「ちょっと、何で泣いてるの?」

「愛想尽かされたらどうしようって思ってて」



「何言ってるの。……じゃあ、もし私が、ミステリー作家になりたいって言ったら、あなたはどうする?」



 相変わらず明李さんは本を読むのが好きで、最近では趣味で小説を書いているみたいだ。僕はまだ読ませてもらっていないけれど。



「えっと、応援する……かな」

「でしょ? ほら、そういうこと」

 彼女は僕の肩をバンバンと叩く。



「ちょっと違うような気もするけど……」

「細かいことは気にしない!」



 明李さんが、そう言って僕を抱き締めた。

 大好きな人の匂いを感じながら、幸せに包まれる。



「うん。ありがとう」

 この人には一生勝てそうもない。