「今日は結構大変だったね」

 バイトが終わった後の、二人きりの空間で先輩が口を開く。



「そうですね。クリスマス前だから、プレゼント用のラッピングがすごく来ました。やっぱり絵本が多いですね」

 私の働く書店は、プレゼント包装のサービスを行っている。この時期は多いと聞いていたが、予想以上だった。



「でも、この絵本を渡された子供が、これをきっかけに本好きになってくれるかも……なんて考えたら、なんかワクワクしない?」

「素敵な考え方ですね」



 相馬大樺そうまたいが。それが、私の好きな人の名前。店長や一部の従業員にはソウちゃんなんて呼ばれている。



 中学生のときに一方的に私が知って、数ヶ月前に再会した。向こうは私のことは覚えていない。



「あの……先輩!」

 クリスマスまで、あと数日。それまでにデートに誘うとなると、シフトの都合上、今日が最後のチャンスだ。



「ん?」

 しかし、いざとなると口から言葉が出てこない。



 宗平にはさんざん言っておいて自分はこの有様だ。情けなくなる。

 何も言えない私を、先輩はじっと待ってくれている。



 何でもないです。

 そんな言葉が滑り落ちそうになった瞬間だった。



「時光さん」

 相馬先輩の方が口を開いた。

「はっ、はい!」



「えっと、話があります」

 かしこまった態度だけど、口元には柔和な笑みが広がっている。



「……はい」



 なんだろう。私の言わんとすることを察して、釘を打とうとしているのだろうか。



 しかし、私の予想は裏切られる。

 先輩の口から出てきたのは、



「今度のクリスマス、一緒に過ごしてもらえませんか?」



 私が言うはずだった言葉だった。