「お父さんと結婚してよかった?」

「何それ? どうしてそんなこと聞くの?」

 柔らかい微笑みが、すでに答えを物語っている。

「んー、なんとなく?」



「よかったよ。あの人のおかげで、私は幸せになれた」

 父は母を、母は父を、互いに信じている。遠く離れた場所にいても、二人の想いは変わらない。



 結局、私の些細な妨害など、何の意味もなかった。少しだけ悔しいような気もするけれど、安心の方が大きい。



 なんだかんだで、私も父のことが大好きなのだ。

 一緒に過ごした時間は六年程度しかないけれど、父の優しさはちゃんと覚えている。



 私の下手な絵を褒めてくれたことも、母に買ってもらえなかったお菓子を次の日にこっそり買ってきてくれたことも。



 繰り下がりのある引き算が苦手で困っている私に、父は丁寧に教えてくれた。簡単な問題でも私が正解すると、父はまるで自分のことのように喜んでくれた。



 宗平、つまり、大学生の父にも同じように教えてもらったときには、なんだか懐かしさを感じた。



 宗平との記憶は、すでに大部分が曖昧になっていたけど、彼は必ず帰ると言っていた。私も母と同じように、宗平の――父の帰りを信じて待つべきなんだ。



 彼のことを忘れてしまっても、そんな思いだけは強く、私の心に残り続けるような気がした。



 ――僕、明李さんにちゃんと伝えたよ。

 昨日の彼の台詞を思い出す。



 結果は聞かなくてもわかっていた。二十二年後の朽名明李さんの――先ほどの母の言葉が、何よりの答えだ。



 あんなに弱気だった彼が、勇気を出して一歩踏み出した。

 今度は、私の番だ。