「笑わないよ。夢があるのはすごく立派なことだと思う。応援する」

「嬉しいです。あ、それと、こうして私と話してくれてありがとうございます」

 先輩が少し恥ずかしそうに下を向く。私の意図は正確に伝わったようだ。



「いや、実は僕も緊張してるんだ。でも、ある人のおかげで今こうして文月さんと喋れてる」

「ある人、ですか?」



「うん。その人がいなかったら、たぶん文月さんを避けてたと思う」



「じゃあ、その方に感謝しないとですね。で、誰なんですか? まさか、彼女さんですか?」



 先輩が、ギクッというような表情をする。かまをかけてみたのだが、どうやら好きな人とは上手くいったみたいだ。



「えっと、彼女……は違くて、いやあの……うん。ちょっと待って。とにかく、別に名前を伏せてるわけじゃなくて、どんな人だったか忘れちゃったんだよ」



 顔を赤くして焦って、しまいには変なことを言い出す先輩がおかしくて、思わず吹き出してしまった。

「先輩、面白いこと言う人だったんですね」



 もしかすると、この日、私の夢は正式に決まったのかもしれない。

 デザイナーになりたいなんて、それまでは誰にも言ったことがなかった。



 先輩と話をしなければ、適当に見つけてきた言い訳で夢を包み込んで、心の奥底に封印して人生を終えていたと思う。

 好きだった人からもらった自信が、私の背中を押してくれたのだ。