「でさ、お母さん、あ、いや。えーと、明李さんは本当につらい思いをしてるの?」

〈え?〉



 宇宙に携わる職に就いて、明李さんと結婚して、娘が生まれる。伊澄が言った通りになるとして、そんな素敵な未来に想像を巡らせてみると、幸せ過ぎてどうにかなりそうになった。

 同時に、疑問に思った点もある。



「たぶん、僕たちはたくさん話し合ったと思う。だから、明李さんは僕が遠くに行くってことを、納得して送り出してくれてるはず……なんだけど」



 自分で言うのも変だが、僕の短所の一つは優柔不断なところだ。だから、転勤先が遠くであるなら、絶対に明李さんと相談を重ねるはずである。十年以上も家族の元を離れるような選択ならなおさらだ。



 伊澄は、明李さんがつらそうにしているということを言っていた。直接聞いたわけではなく、雰囲気から察したのだろう。



 寂しいとは思ってくれているかもしれない。もしかすると、ほんの少しだけつらい思いをさせてしまっているのかもしれない。

 それでも彼女は、僕のことを応援してくれているはずだ。

 僕が好きになった女性は、そういう人だから。



〈キミが言うんなら、そうなのかもしれ……いね〉

 徐々に、伊澄の声が途切れ始めていた。

「うん。だから、明李さんとちゃんと話してみて」

 僕は、ちゃんと伊澄に届くように、声のボリュームを上げる。