〈そっか、全部わかっちゃったんだね〉

「ああ」

〈安心して。キミが心配してるようなことは起きないから。そんな勇気もないし〉



「本当に?」

〈うん。そもそも、キミにあんなことを言った一番の理由は、キミが考えてるようなことじゃないよ〉

「え? なら、なんで……」



〈そもそも昨日、私がキミに、片想いは諦めた方がいいなんて言ったのは、どうしてだと思ってるの?〉

 いつも通りとまでは言えなかったが、少なくとも昨日のようなとげとげしい感じはなくなっていた。



「じゃあ、一応確認するよ。伊澄は、僕と明李さんの……あー、えっと」

 その先にある言葉を口に出すのは恥ずかしくて、つい躊躇ってしまう。



〈何照れてんの。バカじゃないの⁉〉

 伊澄のいつもの調子が戻ってきて、罵倒されているにも関わらず僕は嬉しくなる。



 コホン、と咳払いをして続ける。



「伊澄は、僕と明李さんの子供ってことでいいんだよね?」



〈うん〉

 僕の娘は躊躇うことなく、凜とした声で答えた。



「つまり、僕と伊澄は――」



 空間ではなく。



〈二十年と、ちょっとだと思う。今こっちは二〇三七年だから〉



 時間を隔てて。



「こっちは二〇一五年。うん、僕たちは、二十二年の時を超えて繋がってるわけか」



 遠く離れていたのだった。