「あの人がそういう目的で私に近づいてきたっていうのはちょっとショックだったけど、それ以上に時光くんの気持ちが嬉しかったの」

「それって……」



「私も、時光くんのこと、いいなって思ってて――」

 そんな夢みたいなことがあっていいのだろうか。動揺しながらも、

「ま、待ってください! そこから先は、僕が!」

 慌てて明李さんの台詞を遮断する。



 一度深呼吸をする。しかし心臓は落ち着かない。熱い血液が全身を駆け巡っている。

 覚悟を決めろ。自分にそう言い聞かせた。



 明李さんの目を見据えて、僕は口を開く。

「さっき言った通り、朽名さんのことが好きです。もしよければ、僕と付き合ってください!」



 ちゃんと台詞が出てきたことにホッとしつつ、答えを聞くのが怖くて、僕は目を閉じた。



 さっきの彼女の発言からわかるように、明李さんも僕のことを良く思ってくれているはずだ。



 しかし、まだ僕は疑っていた。大規模なドッキリで、テレビカメラを持った番組スタッフがどこかに隠れているのではないか。これは夢で、次に目を開けたら自宅の布団の中にいるのではないか。



 ここにきても、僕の最悪を想像して保険をかける癖は健在だった。

 だから、それなりに緊張はしていて――



「はい」



 たった二文字だけの、明李さんのその答えを聞いたとき、僕はとても嬉しくなったのだ。



 目を開けると、僕の初めての彼女がいた。こちらを見て微笑んでいる。控えめな笑顔だったけれど、今まで見た中で最上級に素敵で。