彼が明李さんに気づき、二人がもし話し始めるようなことがあれば、取り残された僕は爽やかな空間から逃げるように消え去るだろう。僕の想像はいつだって、悪い方へと加速していく。



 本の話をしながら、僕と明李さんは食事を進めた。

 しかし、神様はいたずらが好きなようで、僕の危惧していた出来事が現実になる。



 男子学生の集団が、再び学食に姿を現したのだ。彼らは明李さんの後ろ、つまり僕の正面に位置する席に着いた。ビニール袋から、各自が購入したであろうお菓子やサンドウィッチを取り出して食べ始める。

 明李さんもイケメンの彼も、お互いに気づいていないようだ。



「あっ、そうだ。つい最近、すごい発見をしたんだけど聞いてくれる?」

 明李さんが、何かを思い出したかのように突然切り出す。すでに僕たちは昼食を食べ終えていた。



「あ、はい。どんな発見ですか?」

「ふふ。それがね――」

 しかし、明李さんがその内容を話すことはなかった。なぜなら、明李さんの後ろの席に座った男たちの会話が聞こえてきたからだ。



「それよりお前、どうなったよ、あの子」

 彼らは、そこそこ大きな声で話していた。食堂が全体的に静かだったこともあり、自然と男たちの会話が耳に入ってくる。



「ん? ああ、あの子か」

 イケメンの彼が言った。その声で、明李さんも彼の存在に気づいたらしく、僕の目の前の華奢な体がビクッと震えた。



「は? また誰か狙ってるわけ?」

「あの超カワイイ子でしょ?」

 男たちが口々に、イケメンに向かって言う。見た目、喋り方、何から何まで軽薄だった。



 そんな彼らが話題にしている女性は、紛れもなく明李さんのことだった。明李さんは喋るのを止めて、彼らの会話に耳を澄ましている。整った顔がこわばっていた。



「いや、全然ダメ」

 男が答える。

「お前でもダメなのか」



「ってかお前、彼女いるくせになんで他の女の子にちょっかい出してんの?」

 僕は自分の耳を疑った。目の前の明李さんも驚いた顔をしている。表情が完全に固まっていた。