「うん。わかった」

 一度だけ深呼吸して、文月さんの目をじっと見つめる。



「こんな僕を、好きになってくれてありがとう。――叶蓮(かれん)」



 彼女の気持ちに応えられないのが、とても悲しかった。またいつか、素敵な恋をして幸せになってほしいと思う。僕なんかよりもいい男の人なんて、そこら中にたくさんいるのだから。



 でも、僕以上に悲しいはずの文月さんは笑って言った。

「……あっ、ありがとうございました。思ったより、すごいですね、これ」

「うん……。僕も、なんか恥ずかしい」

 ようやく収まったと思った心音が、再びうるさくなる。



「もう一つ、わがまま言っていいですか?」

「ん?」

 さっきのよりも強めなものがくるのだろうか。もしそうだったら断ろうと思い、僕は身構える。



「また、今まで通り接してください。すぐには無理かもしれませんが、私も今まで通りにするよう努力しますので。勉強とかも、また見てくれると嬉しいです」

 儚げな笑顔に、胸が痛む。



「うん、わかった」

「ありがとうございます。それでは、お疲れ様です」

 僕を好きだと言ってくれた初めての女の子は、最後まで涙を見せずに去って行った。



 彼女のバッグにつけられた星型のキーホルダーが、きらりと光ったような気がした。





 バックヤードから店内に出て、菓子パンのコーナーを物色する。適当なパンを三つ選ぶと、レジに持って行き会計をする。



「今日はありがとう。本当に助かったよ」

 レジに入っていた店長がダンディな声で言った。五十歳を過ぎている彼は、優しい笑みを浮かべながら、僕の明日の朝ごはんを袋に詰めていく。

「いえ、大丈夫です。お疲れさまでした」



 僕はバイト先のコンビニをあとにして、帰路についた。