僕がいくら鈍くても、さすがにその誘いの意味は察しがつく。あまり驚かなかったのは、きっと伊澄に散々言われていたからだろう。それでも、心の準備ができていたわけではなく、非常事態であることには変わりない。心臓の鼓動が速くなる。



「あ……ごめん。その日はちょっと」

 声を絞り出すようにして、なんとか答える。

「そしたら、別の日に。クリスマスとかじゃなくてもっ!」

 いつもは穏やかに話す彼女が、必死に言葉を紡いでいる。それも、僕のために。



「私、先輩のことが好きなんですっ!」

 文月さんが続ける。彼女の顔は真っ赤に染まっていた。



 生まれて初めての異性からの告白に、心が温かくなった。誰かに想ってもらうということが、こんなに嬉しいなんて知らなかった。加えて、その相手はとても素敵な子だ。



 けれど、僕がその気持ちに応えられるかどうかとは、残念ながら無関係で。

 恋愛の難しさを、また一つ学んだ。



「なので、クリスマスとかじゃなくていいので、一緒に――」

「いや、実は好きな人がいて……」

 これ以上言わせるのは申し訳なくなってきて、彼女の台詞を遮った。



「……そう、ですか」

 文月さんは下を向いてしまう。



「うん。だから、ごめん。気持ちは、すごく嬉しいんだけど」

 気まずい沈黙が訪れる。