バイトが終わり、僕はバックヤードで温かい肉まんを食べていた。急な勤務を引き受けてくれたお礼ということで、店長におごってもらったものだ。



 昼の伊澄との会話を思い返して、心が落ち着かない。モヤモヤのせいで、いくつか小さなミスをしてしまった。

 肉まんを食べ終えて帰る支度をしていると、扉が開き、コートに身を包んだ少女が入って来る。



「あれ、どうしたの、文月さん。風邪はもう大丈夫なの?」

 姿を現したのは文月さんだった。マスクを着けているせいで、吐息がかかった眼鏡の下の方が白く曇っている。



「はい。代わっていただいてありがとうございます。ご迷惑をおかけしてしまってすみません」

 文月さんは深々と頭を下げる。



「いや、僕は大丈夫だけど。文月さんは、安静にしてた方がいいんじゃない?」

「家は近いので、用事を済ませたらすぐに帰って寝ます」

 いつもより険しい表情を浮かべているのが、マスク越しでもわかった。声もどこか不自然に感じる。体調が悪いのに無理をしているのではないかと心配になる。



「用事って?」

「先輩に、大事な話があります」

 彼女の顔が赤くなっている。外が寒かったからだろうか。いや、熱があるのかもしれない。



「大事な……話?」

 なんだろう……。愚鈍すぎる僕は、この時点で彼女の心の内を察することができなかった。



 一度深呼吸してから、彼女は切り出した。

「あの……もしよければ、クリスマスに、一緒に出かけてくれませんか?」

 真っすぐに僕の目を見つめる文月さん。その声は不安そうに揺れていながら、力強い意思を感じさせた。