宗平に、直接会ってみたいと言われた日の夜。

 母が窓から夜空を見上げていた。今日は仕事が休みで、久しぶりにショッピングに出かけるというようなことを朝に言っていたっけ。



 バイトから帰ってきた私には気づいていない様子で、ため息を吐き出す。どこか落ち込んでいるように見えた。

「どうしたの?」



 そこでやっと私の存在を認識したらしく、母は振り向いた。

「ああ、伊澄。お帰り。いや、ちょっとね」

 困ったように笑う彼女の表情が見ていられなくて、私は「そう」とだけ答えて、自室へ向かった。



 制服のまま、ベッドに寝転がる。

 母が元気がない理由は、なんとなく予想することができた。おそらく、父のことを想っているのだ。



 父が遠くへ行ってしまう前、よく三人でショッピングモールに出かけたことを覚えている。父は、母が時間をかけて服を選ぶのを、疲れた私をおんぶしながら嫌な表情一つ見せずに付き合っていた。

 そんな昔の出来事を、母は思い出していたのではないか。



 世界中の誰よりも愛している人なのに、約十年間、顔も合わせていなければ、声すら聞いていなのだ。

 そんなの、あまりにもつらすぎる。

 なぜか私まで気持ちが沈んできた。



 そんなときにはいつも、窓から夜空を眺める。果てしない空と綺麗な星たちを見ることで世界の大きさを再確認し、自分の悩みなどちっぽけなものだと思うことができるからだ。



 カーテンと窓を開けて、首から先を外に出す。十二月の空気は冷たく、自分の吐息が白くなるのが見えた。

 夜空には、綺麗な弓張り月が煌々と輝いていた。