「……変なこと言ってごめん」

 僕は冷静になって謝る。

〈ううん。大丈夫〉



 胸が、ギュッと締め付けられるような感覚。

 伊澄に対する、僕のこの気持ちはいったい何だろう。どうしようもなく愛しい。



 伊澄は、いつだって真っすぐに生きてきた。知り合って二ヶ月しか経っていない。しかも声だけの関係であるにも関わらず、そう断言できるほどに彼女は公明正大だ。



 どこまでも他人に対して誠実で、そしてそれ以上に、自分に対して正直だ。

 僕は、そんな彼女に惹かれていた。

 僕もそんな風に真っすぐに生きることができたら、もっと自分に自信が持てるのに。



 しかし、憧れであると同時に、その正直さが心配でもあった。まだ高校生の彼女は、これからたくさんの悪意に触れるだろう。僕は、そんな彼女を守りたかった。

 叶わないことだとはわかっていても、心のどこかでそうなることを願っている。



〈それじゃ、また明日……かな?〉

「うん。また明日」



 交わしたのは、不確かな約束だった。

 石が媒介する伊澄の声は、すでに聞き取れない箇所を脳内補完するほどになっていた。いつ届かなくなってもおかしくはない。



 今までは、ただの友達だと思っていたのに――。

 別れの時間が近づいてくるたびに、切なさが募っていく。心が戸惑いと喪失感に包まれ、僕にとっての伊澄という存在が、どんどんわからなくなっていく。