〈今の会話で予想はついたと思うけど、私、友達から無視されてるの。出会ったばかりの頃、どうして昼休みに一人で公園にいるかキミに一回聞かれたときは、友達と喧嘩してるからって誤魔化したような気がするけど、少し違うの。喧嘩っていうよりも、一方的に嫌われちゃっただけ〉



 そんな話をしたことは、まったく覚えていなかった。出会った頃といえば二か月前だ。その頃の記憶は、もうほとんどないようなものである。



 伊澄の声には確かに痛みが含まれていて、こちらまで悲しくなってくる。

 僕にはどうすることもできないのだろうか。



 胸に愛しさがこみあげてくる。

「伊澄は、今どこにいるの?」

 思わず口走ってしまった台詞に、自分でも驚いた。

〈え?〉



「いや、会ってみたいなって思って」

 伊澄と知り合ってから今までずっと、直接会うというような話題は避けてきた。しかし、彼女との思い出が消えてしまうかもしれないとわかった今、このままで終わってしまうのは嫌だった。



 もしも彼女が場所を教えてくれれば、僕はどこへだって会いに行こう。北海道でも沖縄でも。たとえ地球の裏側でも。



〈……私も、キミに会ってみたいよ〉

 伊澄は数秒だけ迷ってから言った。僕と同じ気持ちだったことに安堵する。



「じゃあ――」

〈でも、それは今じゃない〉

 僕の発言を遮るように、彼女の声がかぶせられる。

「え?」



〈今じゃないけど、会いに行く。絶対、キミに会いに行くから。だから、待ってて〉



 そんな台詞を紡いだ伊澄は、何だか歯切れが悪いように思える。

 伊澄は正直者で、姿の見えない僕との会話の中でさえ、ほとんど嘘をついたことはなかった。そんな彼女が、僕に会いに来ると言っている。



 彼女だって、僕のことなど名前以外に知らないはずだ。

 伊澄に嘘をつかせてしまったのだろうか。それだけ、彼女を困らせてしまっているということだ。