〈キミが恋愛相談を持ち掛けてきたのって、ちょうど一ヶ月くらい前だよね〉

「そうだね。伊澄は『さっさと告ってフラれてきなさい!』とか言ってそう」



〈あはは。あり得る。キミは『僕じゃ無理だよぉ。助けて! ママぁ!』って言ってたっけ〉

「ものすごく悪意に満ちた捏造だね」

 憶測で話す二人の会話は何だか楽しくて、僕たちは声を出して笑った。



 近いうちにやって来る、お互いを知らない未来。もう、覚悟はできている。きっと伊澄だってそれは一緒だ。それでも、寂しい気持ちがないわけではなくて――。



〈今こうして笑ってることも、そのうちなかったことになっちゃうんだね〉

 呟くような伊澄の声からは、哀愁が漂っている。



「うん。でもさ、もし僕たちが出会わなかったら、未来は違ってたかもしれないんじゃない? 少なくとも、僕は伊澄のおかげで明李さんと仲良くなることができたし、これから気持ちを伝えようとしてる」

 僕一人では、到底たどり着けなかった今が存在している。



〈うん。その通り。全部私のおかげだね〉

「肯定されるのもなんか癪だな。だからさ、伊澄はたしかに僕の人生を変えたんだよ。僕は伊澄にとって、なんでもない人間かもしれないけど」



〈キミ、すごく恥ずかしいこと言ってるのわかってる?〉

「どうせ忘れちゃうんだし、いいかなって」



〈私たち、何のために出会ったんだと思う?〉

「さあ、どうだろうね」



 そもそも、僕たちの出会いは必然だったのだろうか。それとも、ただの偶然で、意味なんか何もないのだろうか。



 そんなことは、考えても答えなど出るはずがない。けれど、二人で過ごした声だけの昼休みが、伊澄にとってプラスになっていればいいなと思う。伊澄と出会って、僕の人生が変わったように。