「答えられない。その状況にならないとわからない。でも、仕事を選んだからといって、家族を大切に思ってないわけではないと思う。たくさん悩むし、きっと自分一人じゃ決めきれない。ただ、自分のことを信じて待っててくれる人がいるから、その人たちの元へ帰ることを目標に仕事を頑張れる。たぶん、家族ってそういうものだと思うから」



 伊澄は、黙って僕の答えを聞いているようだ。

 一呼吸置いて、僕は続ける。



「だから子供は、お父さんの帰りを信じて待つしかないんじゃないかな。帰ってきたら、文句をぶつけてやればいいと思う。もしも僕がその立場で、仕事に行くことを選んだとする。帰って来て子供の声を聞けるなら、たとえ内容が文句でも何でも嬉しい……と思う」



 こんな僕が、家族なんて持てるかどうかわからないけどね。最後に、そう付け加える。



〈そっか……。うん。ありがとう〉

 僕の答えに対して、伊澄はそう言った。

「どういたしまして」



〈あっ、そんなことより、告白だよ〉

 彼女はすっかり元気になっていた。完全に悩みを解決できたわけではないはずだったが、少しでも胸のつかえがとれてくれればそれでいい。



「うわ……どうしよう。緊張してきた。心臓吐きそう」

 話題を引き戻され、先ほどの自分の宣言を少しだけ後悔する。

〈まだ早いから! いつ言うつもりなの?〉



「今週の金曜日がクリスマス前に最後に会える日だから、その日、僕の気持ちを全部ぶつけてくる」

〈……まさかとは思うけど、一応聞いておくね。どこで告白するつもり?〉



「どこって、食堂だけど?」

 何のためらいもなく僕は答える。食事が終わったら、そのまま想いを告げるつもりでいた。

〈まったく成長してない。いっそすがすがしいくらい……〉



「え? どうして?」

〈それはこっちの台詞だから! ムードってもんがあるでしょ! 大学の食堂なんて別にお洒落なわけでもないし、人がたくさんいるわけでしょ? そんなところで愛の告白……。え⁉ どうして⁉〉



「じゃあ、やめといた方がいいの?」

〈そうね。一回人間をやめてみてもいいと思う〉

「……」

 辛辣なお言葉をいただき、僕は言葉を失う。