お互いに関する記憶がなくなっていくかもしれない、という話をしたあとも、伊澄と僕は昼休みを一緒に過ごしていた。



 次の日には、気まずい雰囲気などなかったかのように、いつも通りに話をするようになっていたのだ。



 伊澄曰く、どうせ忘れちゃうんだし、それならせめて最後まで、ちゃんと友達でいようよ! だそうだ。彼女の真っすぐな性格に、僕は心の中で感謝した。





 本格的な寒さを感じる十二月の中旬。僕は例によって、小屋で昼食を食べていた。日当たりはよく、風は入ってこないので、中は意外と暖かい。



〈ねぇ、ご飯がまずくなるからやめてくれません?〉

 菓子パンを食べていると、不意に彼女からそんな台詞が告げられた。

「え?」

 何のことかわからず、僕は聞いた。



〈気づいてないの?〉

 驚いたように、伊澄が言う。

「えっと……ごめん。何のことかさっぱり」



〈ため息だよ、ため息! いつもの十倍くらい出てるから!〉

「そんなに?」

 自覚はなかった。無意識のうちに吐き出していたみたいだ。



〈そんなに! で、今度は何があったの?〉

 なんだかんだで心配してくれているらしい。



 原因はわかっている。明李さんのことを狙っているイケメンがいるということや、明李さんが過去のトラウマで恋愛が怖いのだということを知ったのが、先週の金曜日のことだった。