「もちろん、この人いいなって思うことも今まであった。でも、また裏切られるのが怖かった。私に好意を持ってくれてる人に対しても、上辺だけしか見てないんだろうなって思うと、どうしてもダメで」



「それは、その男がそうだっただけで、朽名さんのことを好きな人が全員そういう人ってわけじゃ……」

 少なくとも僕は、明李さんの魅力的なところを、外見以外でもでたくさん知っている。



「わかってる。わかってるんだけど、どうしても前に進めないの。人から好意を寄せられることが……人を好きになることが怖いの」



 大好きな人の声が湿っていたから、僕はつい言ってしまったのだ。



「僕なら、絶対に朽名さんを不幸にしません!」



 思いがけず大きな声が出てしまった。近くの学生が数人、何事かと僕たちをうかがうが、それも一瞬のことだった。

 そんなことよりも……こんなの、ほとんど告白のようなものじゃないか。ああ、もう……どうにでもなれ!



 ところが、明李さんは驚いたように目を見開いてから、ふっと柔らかく笑って、

「ありがとう。時光くんは優しいね」

 そう言った。



 どうせなら、僕の気持ちが彼女に全部伝わってしまえばよかった。でも、今はこれでいいのかもしれない。少しずつ、彼女に歩み寄っていければ――。