明李さんは斜め下あたりに視線をやりながら沈黙していたが、最終的には少し迷いを見せながらも話し始めた。

「……過去にね、恋愛関係で酷い目に遭ったことがあるの」



 酷い目とはどんなことだろうか……。最悪の事態を想像して、すぐに脳内から追い出す。



「ああ、そんな深刻なことじゃないよ」顔に出てしまっていたらしい。「ごめんね、大げさだった。ちょっとしたトラウマっていうか、恋愛が怖くなっちゃっただけだから」



 なるべく重い雰囲気にならないように振る舞おうとしているみたいだが、無理をして笑顔を作っているのは明らかだった。彼女にとってはつらい出来事だったのだろう。



「具体的にどんなことか、聞いても大丈夫ですか?」

 踏み込み過ぎただろうか。でも、明李さんが心のどこかで助けを求めているような気がしてならなかった。それは、僕の都合のいい思い込みかもしれないけれど。



「中学三年生の……夏頃だったかな。同級生の男の子から告白されたの。私もそのときは恋愛に興味があったし、特に好きな人もいなかった。それに、その子は格好よくてスポーツもできる人気の男子だったから、断る理由もなかった。そんなわけで、付き合ってみることにしたの」



 好きな人の、昔の恋の話を聞くのはキツいものがあった。それが本人にとってもつらい話であればなおさらだ。