「永山さんですよ」

え?

顔を上げると、人懐っこい顔で笑うと

「課長から、今日永山さんに見積もり頼んだ、って聞いたから戻ってきたんですよ。どうせ、永山さんの事だから終わるまで帰らなさそうだから」

「そ、そっか。そんな気にしなくてもよかったのに…。私が残業するのは、営業さんに気持ちよく見積書を持って行ってほしいから、早く出したいだけなんだから」

齋藤君だから、とは言えない。

「だとしても、女性一人残って仕事なんてさせられないですよ」

「あ、あの…」

「なんですか?」

「手…手離してくれると…」

「え?」

凄い勢いで私の手を握っていた齋藤君は、私に指摘されても離そうとしなかった。

「いや、あの…仕事が出来ないんだけど」

「あっ、すみません。つい…」

つい?
握られた手が熱くなっていた。
そして、私のドキドキも最高潮に達していた。

静まれ、心臓。

望んでも、すぐに治る訳もなく…

長い沈黙が続いた。

「あ、見積もりどこまで出来ました?」

その場を崩すかのように、齋藤君が話し出した。

「あ!見積書ね。これ、もう出来たんだけど。今チェックしてたの。見てもらってもいい?」

今プリントアウトした見積書を手渡すと、齋藤君は言葉を失っていた。

「どうしたの?」