「さ、齋藤君!?ど、どうしたの」

「どうしたの?じゃないよ。6時に上がってるのに、なかなか出てこないし、電話しても出ないし、まってられないから、ここで待ってた」

「電話?」

慌てて携帯を見ると、和己さんの着信の前に、齋藤君からの電話がかかってきていた。

「ごめんね…で、でも…ここじゃ…まずいよ」

「何が?もう俺、我慢するのやめたんで。行こう」

「え、え?」

我慢しないんで、って言いながら、齋藤君は私の手首を掴むと、そのままエレベーターの前まで私を引っ張って行った。
もちろん、まだ社内に残ってる人がいるわけで、私と齋藤君の意外な組み合わせに、すれ違う人が驚いて見ていた。

「齋藤、どうした?永山さんとデートか?」

「えぇ、そうなんです。手出さないで下さいね」

「え???な、何?」

齋藤君に聞いてる人も、冗談で私とのデートかなんて聞いたのに、真顔で今からデートです。手出さないで下さいね、なんて言ったもんだから、「おい、マジかよ」って、慌ててるし。

「いや、齋藤君。どうしたの?」

「どうしたの?じゃないよ。今日だって、白石課長に声かけられてたでしょ。だから、隠すのやめた。もう付き合ってるって言うから」

だ、ダメだ。
何も言えない。
明日…会社大変だろうな、大丈夫かな。
そんな事を考えていた。


そして、会社の玄関を出ると、タクシーをつかまえた。

「乗って」

促されるまま、タクシーに乗り込んだ。