〜それは嫌な夢だった〜

その日は夢を見た。

『また、逃げるの?』

「何言ってるの先生。私は逃げたことなんて。」

またって何?先生、先生の顔が怖くて見れない。どうしてそんなに冷たい声でそんなこと言うの?

私は靴を履く。

『いつまで逃げる気?』

もう聞きたくない。でもうまく靴が履けなくて、涙が地面に吸い込まれるように落ちていく。

履けた。

『結局、今回も逃げるのね。』

私は先生の冷たい声を背中に、逃げるように地面を見つめ続けて走った。

ハッと目を開けると、そこは自分のベットの上。

誰とも分からない同級生に、トイレに閉じ込められて上からバケツの水を掛けられる。
私はトイレを飛び出して、下駄箱に向かった。そこには冷たく私を見つめる先生がいて。
『また、逃げるの?』
私は先生の顔を見ることなくその場を逃げ出した。

端的に言うとそんな夢だった。

不意に目元を触るとそこには涙の流れた跡があった。

『また、逃げるの。』

さっきの言葉がリピートされる。

でも、過去にそんな事を言われたことはない。トイレに閉じ込められて上からバケツの水を掛けられれたことも。
そんな定番みたいなものも体験したことはない。

「何なの。」

私は音ともならない声でそう呟いた。