その夜は眠れなかった。


眠ろうと目を閉じると、衛藤の泣きそうな笑顔だけが延々と浮かんでくる。




…このままじゃダメだ。


衛藤がどこから話を聞いていたか分からないけど、ちゃんと伝えよう。

昨日話していたことは全部違うって。嘘なんだって。



この気持ちには蓋をするって決めたんだから。





翌日、俺は登校してくるであろう衛藤を昇降口で待ち構えていた。

我ながら待ち伏せなんてどうかと思うが、仕方ない。

教室での衛藤はいつも友達に囲まれているから、その中からわざわざ連れ出すのは気がひける。



暫く待っていると、どこかボンヤリした表情の衛藤が登校してきた。

俯きがちに歩いている。



…なんだか、元気がないな。




「衛藤」



靴を脱いでロッカーを開けた衛藤に駆け寄ると、ボンヤリした表情が一転、ギョ、と目を大きく見開いた。



「つ、つつるん」


「…おはよ。あの、昨日のことだけど…」


「だっ大丈夫!」



勇気を持って話し出したというのに、衛藤にそれを強引に遮られる。



「…え」


「昨日はごめんね、なんか責めるようなこと言っちゃって!悪いのは全部私なのに!
冷静に考えればそうだよね!
つつるんだって受験あるのに、毎日勉強教えてもらうなんて、迷惑すぎたよね!」



…何、言ってんだ?



無理やり作ったような笑顔で、ペラペラと早口で捲したてる衛藤に、俺はついていけない。