「次の数学の課題で分からないところがあって…教えてくれるっ?」
俺の机の前にしゃがみこみ、クルリとパッチリ二重の大きな瞳を向けてくる衛藤亜衣。
そして衛藤が勝手に俺の机の上に開いたノートには、ビッシリと数学の数式が書き込まれていた。
…こいつ、何でこんな急に。
俺の中の衛藤亜衣のイメージは、いつも明るく賑やかで、授業中もつい友達と喋ってしまい先生に注意されているような女子だ。残念ながら勉強熱心なイメージは皆無。
…いよいよ本格的に受験が迫ってきたから慌てているのだろうか。
「ねぇ教えて?こことここと、あと、ここも!」
衛藤亜衣が教えてくれと言ってくるのは基礎中の基礎の問題ばかり。
しかも解いてある問題もほとんどが間違っている。
…こんなの今まで真面目に勉強していれば簡単に解ける問題ばかりだ。
「生憎だが今は読書で忙しい」
俺は再度理論物理学の本を開き衛藤亜衣をシャットダウン。
こういう付け焼き刃で勉強しようとする奴が、計画性がなく、今まで努力をしてこなかった奴が、俺は嫌いだ。



