「…う、産まれてる……」
「何ゆーとんねん、アホか」
「いでっ」
昨日ネコを描きっぱなしだったことを思い出して、私はお弁当をかきこんで急いで図書室に来た。
そしていつもの席へ向かうと、私のネコだけじゃなくて、もう1匹猫がいた。
なんと、絵のネコが子供を産んでいたのだ。
「だから、そんなわけないやろ。アホか」
「いだっ」
本日2度目の本の角。同じ場所に的確にぶつけてくるから、私の頭はジンジンが止まらない。
「…にしても、何と言うか、イビツやな」
沙耶香ちゃんは産まれた…じゃなくて、増えたネコを覗き込んで、ストレートな感想を述べる。
「特に、香穂のと並ぶとひどいわ」
「目のとことか、可愛いよ?」
「デカすぎて気持ち悪い」
私のフォローがあっさり打ち消されたところで、横に書かれた文章を見つけた。
「あ、何か書いてる」
「ホンマや、割と短めやな」
よく見ると、綺麗な字が、私の絵の感想を書いていたみたいだ。
『可愛らしいですね』
字的に女性かな?よく分からない。
「なんやねん、名前くらい書いといてほしいわ」
相手が分からないメッセージに、沙耶香ちゃんはつまらなそうな表情。
名前を書いていたら、学年が違っても、沙耶香ちゃんなら見つけそう。
「…で、どうすんの?」
「へ?」
「このまま放置すんの?何か書いといたら?」
沙耶香ちゃんはそのまま、踵を返して帰ってしまった。そう言えば、英語の宿題終わってないって言ってた。
私は机と向き合って、ネコを見続けた。
…何度見ても、増えた方のイビツさが感じられる。
「…どうしようかなぁ」
と言いながらも、頭の中ではいくつか候補が出ていた。んー、褒められて嬉しいから、喜んでる感じにしよう。
前のネコを消して、新しく描き直す。
……え、上出来すぎる。
「香穂ー!はよ行くでー!」
何だかんだ待ってくれてた沙耶香ちゃんが叫ぶ。
「はーい!」
私も叫び返したけど、声が小さくて叫んでるとも言えない感じだった。
最後に、増えた方のネコを見直した。
やっぱり、イビツだった。