暖かく、心地良い。
ふわふわとした空間。
まるで、夢の中のよう。
きっと、空を飛ぶことも出来るよ。
こうやって……
ほらね。
あぁ、楽しいなぁ!

「……ほ……かーほ!」
「いでっ!」
聞き覚えのある声と共に、頭に激痛。
目を開くと、隣に座っていたのは、友達の沙耶香ちゃんだった。
…っていうか、私、寝てたのか……さっきのも夢だったんだ。
「本の角で殴るのは、ただの暴力だよぉ」
頭を抑えて、大袈裟に悲しがると、沙耶香ちゃんは鼻で笑った。
「ウチに勉強会を誘っといて、図書室でぐっすり寝てる人に言われた無いわ。香穂はいっつものんびりしてるなぁ」
長いポニーテールを揺らしてイタズラな笑みを見せて、沙耶香ちゃんは立ち上がった。
そして、軽い伸び。
「さてと、ウチはそろそろ帰らんとなぁ」
「用事あるの?」
「塾や。受験生やから、って入れさせられた」
不満そうに口を尖らせて、雑に机の上の教材を片付ける。
私はその様子を見て、中3は面倒だなぁ、と改めて感じた。
「私も受験生かぁ……」
「なんや、今更か?…わっ、ヤバい。ほんじゃな」
「あ、うん。また明日ね」
私はドタバタと走って行く沙耶香ちゃんを見送る。
廊下で先生と沙耶香ちゃんの声が聞こえた。多分、廊下を走るなーと、すいませーんだと思う。
「ふぅ……」
静かになった図書室を見渡し、私は小さな溜息を付いた。
この席は私の特等席で、日差しが良く差すし、図書室がよく見渡せる。
端っこであんまり目立たない席だから、中2から独占している。
伸びをして、勉強の再開。…ん〜、数学やっぱり分かんないよぉ…。
退屈になった私は、机の端にネコを描いてみた。おぉ、意外に良い感じ。
そのとき、図書室の扉が雑に開いた。顔を出したのは図書室の先生
「おー、山本か。図書室閉めるぞ、出ていけ」
「あ、はい」
先生がカギを開けたり閉めたりと焦らせてきて、私はそれを感じながら急いで準備した。
だから、気づかなかった。
忘れていた。
「お待たせしましたっ」
「意外に早かったなー」
少し失礼な言葉を言いながら、先生はしっかりと図書室を閉める。
私はそのまま靴箱へと向かった。
特に何も考えず。

さっき描いたネコのことも、忘れて。